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大阪地方裁判所 平成11年(行ウ)44号 判決

原告

遠山祐司

右訴訟代理人弁護士

河田毅

被告

浪速税務署長 元木茂喜

右指定代理人

北佳子

益野貴広

足立孝和

安田英生

黒田道雄

森井裕明

鷹野郁司

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求の趣旨

(一) 被告が原告に対して平成九年七月八日付でした被相続人遠山義正に係る平成六年分の所得税(以下「本件所得税」という。)の無申告加算税の賦課決定処分(平成一〇年五月一九日付でされた異議決定により一部を取り消された後のもの。以下「本件賦課決定処分」という。)を取り消す。

(二) 被告が原告に対して平成九年九月二九日付でした本件所得税の無申告加算税の督促処分(平成一〇年六月二六日付でされた督促金額等の変更通知により一部を変更された後のもの。以下「本件督促処分」といい、本件賦課決定処分と併せて「本件各処分」という。)を取り消す。

2  予備的請求の趣旨

(一) 本件賦課決定処分が無効であることを確認する。

(二) 本件督促処分が無効であることを確認する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  遠山義正は、平成六年一一月三日に死亡した。

義正の法定相続人は、妻である遠山淳子、子である双代政子、遠山照圀、遠山よし子、遠山安子、大谷直子及び子である遠山義夫(平成六年一一月三日死亡)の子の原告の七名であった。

2  原告は、平成九年六月二日、本件所得税について納付すべき税額を二三七万〇五〇〇円とする準確定申告(ただし、期限後申告)をした。

3  被告は、原告に対し、平成九年七月八日付で、本件賦課決定処分(後の異議決定により一部取り消される前のもの。)をし、同年九月二九日付で、本件賦課決定処分に係る無申告加算税が納付されていないとして本件督促処分(後の変更通知により変更される前のもの。)をした。

4  原告は、本件各処分を不服として、被告に対して異議申立てをしたところ、被告は、平成一〇年五月一九日付で、本件賦課決定処分を一部取り消す旨の決定をし、本件督促処分については、平成一〇年六月二六日付でされた督促金額等の変更通知書により一部を変更した上、平成一〇年七月三日、その余の本件各処分に対する異議申立てを棄却する決定をした。

5  原告は、右各決定を不服として、国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、同所長は、原告に対し、平成一一年三月五日付で審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、同月一〇日付で通知した。

6  本件各処分の違法事由

本件各処分には、次のとおり、重大かつ明白な瑕疵がある。

(一)(1) 淳子以外の義正の法定相続人六名のうち原告と遠山安子については、義正は、平成六年七月一〇日付自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)により、その相続分を零と指定した(なお、本件遺言は、大阪地方裁判所の平成九年七月一五日判決(乙二、以下「別件判決」という。)が確定したことにより、有効であることが確定した。)。

(2) 義正の妻であった淳子は、平成七年一月一九日、準確定申告書を提出しないで死亡した。

(3) そうすると、結局、義正の死亡によりその遺産を取得する者のうちで生存者は照圀、政子、よし子及び直子の四名であり、右四名の取得割合は平等であるから、右四名が納付すべき税額は、本件所得税の納付すべき金額を四等分した金額となるべきである。このように、本件所得税の申告及び納付についての承継義務者は、原告と安子を除く者に限定されることになるべきであり、原告と安子は、義正の納税義務を相続して死亡した淳子の相続人であることによっても、義正の納税義務を承継することはない。

(4) 被告が、本件所得税の準確定申告書において、課税処分額が二三七万〇五〇〇円であるとして決済されていたものを、再度、原告と安子以外の共同相続人について課税処分額が一一八万五二五〇円であるとして課税しようとするのは、二重課税である。

(二) また、義正の死亡により、その遺産を取得した右四名とそうでない原告とを同様に義正の準確定申告義務者とすることは法の下の平等に反する。更に、義正の相続人のうち、原告と安子を除く者は、相続分に従えば、義正の納税義務の二四分の五を承継する筈であるのに、六分の一に相当する額しか徴収されておらず、それにもかかわらず、原告には相続分に応じた一二分の一の負担を課することも、法の下の平等に反する。

7  よって、原告は、被告に対し、本件各処分につき主位的にその取消しを、予備的にその無効確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし5の事実は認める。

2  同6は争う。ただし、同6(一)(1)(2)の事実は認める。

三  被告の主張

本件各処分は、別表記載のとおりの配分計算に基づいてされたものである。

すなわち、国税通則法五条一項及び二項によれば、相続人は、被相続人に課されるべき国税を民法九〇〇条ないし九〇二条の規定による指定相続分(それがないときは法定相続分)の割合で負担する旨規定されている。淳子が準確定申告をしないまま死亡したので、淳子が義正から承継していた本件所得税の納付義務につき、淳子の相続人らが更に準確定申告義務を負うことになった。被告は、まず、別表〈1〉欄記載のとおり相続分を計算して本件各処分(後の異議決定ないし変更通知により一部取消しないし変更される前のもの)を行った。しかし、その後、別件判決の確定により本件遺言が有効であることが確定し、原告と安子の指定相続分が零であることが判明したため、別表〈2〉欄記載のとおり相続分を計算し直して、本件各処分を一部取消しないし変更した。原告に対する本件各処分は、義正の死亡により同人の納税義務を原告が直接承継したことに基づくものではなく、義正の死亡により淳子が承継した納税義務(二分の一の割合)を、淳子の死亡により原告が相続したことに基づくもので(法定相続分である六分の一の割合)、その結果、原告が、義正の納税義務の一二分の一の割合を負担することになるものである。

このように、本件各処分は、所得税法一二四条、一二五条、国税通則法五条に基づく当然の内容であって、二重課税の事実もなければ、他の共同相続人らに対しても、別表記載のとおりの課税を行っており、法の下の平等に反することもなく、その他何らの違法事由もない。

理由

一  請求原因1ないし5の事実、同6の(一)(1)(2)の事実は当事者間に争いがない。右争いのない事実に証拠(甲一の1ないし3、二ないし六、乙一ないし五)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  義正は、平成六年一一月三日、死亡した。義正の法定相続人は、妻である淳子、子である政子、照圀、よし子、安子、直子及び代襲相続人である原告(子である亡義夫の子)の七名であったが、義正は、同年七月三〇日付自筆証書遺言(本件遺言)で原告と安子の相続分を零と指定する相続分の指定をしていた。

2  義正の死亡による準確定申告の申告期限は平成七年三月三日であったが、淳子は、本件所得税についての準確定申告をしないまま、平成七年一月一九日、死亡した。

3  淳子の相続人は、原告と右五名の子であり、これらの者はいずれも淳子の死亡による準確定申告義務を負い、その期限は平成七年五月一九日であった。

4  浪速税務署は、平成八年四月二三日、原告に対し、「譲渡所得の申告案内について」と題する書面(甲一の1~3)を送付した。

これによると、本件所得税の納付すべき税額である二三七万〇五〇〇円を法定相続分(六分の一)で按分し、端数処理(国税通則法五条二項、一一九条一項)した三九万五〇〇〇円を原告が承継すべきものとされていた。別表〈1〉欄記載のとおり、義正からの相続の原告の法定相続分は一二分の一であり、これに淳子から更に相続したものを加えると六分の一になる。しかし、右書面にはその計算過程は記載されていなかった。

5  義正の子である照圀は、平成八年七月一八日、義正の相続に係る遺産分割の調停を申し立てた。よし子と安子は、後に、寄与分を定める調停を申し立てて、両調停事件は併合審理されることとなった。

6  原告、よし子及び安子は、平成八年一〇月一日、本件遺言(乙三)の無効確認を求める訴えを提起した。

7  原告は、平成九年六月二日、本件所得税につき、準確定申告(期限後申告)をした。承継すべき税額は、「被排(廃)除者につき遺留分で申告します」と記載した上、一二分の一で按分した一九万七五〇〇円と記載した(乙四)。

8  被告は、平成九年七月八日、本件遺言が不存在又は無効であることを前提として、原告に対し、本件所得税の納付すべき税額二三七万〇五〇〇円を法定相続分(六分の一)で按分した三九万五〇〇〇円を原告が承継すべきものとする「お知らせ」(当初お知らせ)(甲三)を送付するとともに、右の額を前提に、無申告加算税五万九二〇〇円を課する旨の本件賦課決定処分をした。

9  大阪地方裁判所は、平成九年七月一五日、本件遺言を有効とする別件判決(乙二)を言い渡し、右判決は、控訴がされずに確定した。

10  原告は、平成九年九月三日、本件賦課決定処分について異議申立てをした。

11  被告は、平成九年九月二九日、原告に対し、本件遺言が不存在又は無効であることを前提として、無申告加算税が五万九二〇〇円であるとして本件督促処分をした。

12  原告は、平成九年一一月二六日、本件督促処分について異議申立てをした。

13  被告は、平成一〇年五月一九日、今度は、本件遺言が有効であることを前提として、別表〈2〉欄記載の割合のとおり、原告は、義正の死亡により、本件所得税の納税義務を承継しないが、淳子が相続により義正から承継した税額一一八万五二〇〇円分(義正の税額の二分の一)を、淳子の死亡により、五名の子らとともに法定相続分(六分の一)の割合で相続するものとし、結局、義正の納付すべき税額の一二分の一を端数処理した一九万七五〇〇円を原告が負担すべき税額であるとする「お知らせ」を送付し、本件賦課決定処分を一部取り消し、無申告加算税を二万九六〇〇円として、その余の異議申立てを棄却するとの決定をした。

14  原告は、平成一〇年六月三日、国税不服審判所長に対し、本件賦課決定処分について審査請求をした。

15  被告は、原告に対し、平成一〇年六月二六日、無申告加算税が二万九六〇〇円であるとの前提で督促処分変更通知をした上、平成一〇年七月三日、本件督促処分についての異議申立てを棄却する旨の決定をした。

16  原告は、平成一〇年八月四日、国税不服審判所長に対し、本件督促処分について審査請求した。同所長は、本件賦課決定についての審査請求と併合審理することとした。

17  大阪家庭裁判所は、平成一〇年九月一八日、義正の相続に係る遺産分割について、本件遺言は原告と安子の相続分を零と指定する旨の遺言である等と判示して、原告、安子及びよし子は遺産を取得しない旨の審判(甲四)をした。

18  国税不服審判所長は、原告に対し、平成一一年三月五日付で原告の審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をし、同月一〇日付で通知した。

二  右一の認定事実からも明らかなとおり、平成一〇年五月一九日付及び同年六月二六日付で一部取消しないし変更された後の本件各処分は、義正の死亡により同人の納税義務を原告が承継したことによるものではなく、義正の死亡により淳子が承継した義正の納税義務を、その後、更に、淳子の死亡によって原告が承継したことに基づくものであり、所得税法一二四条、一二五条、国税通則法五条の各規定を適用した当然の帰結であって、適法であるというべきである。原告の請求原因6(一)(二)の主張は、いずれも判然としないが、原告が義正の遺産の配分から除外されることになったからといって、義正の妻であり準確定申告義務者であった淳子が右準確定申告期限内に死亡したことにより、原告が淳子を相続することによって準確定申告義務者としての地位につくことが否定されることにはなり得ない。また、本件全証拠によっても、二重課税の事実を認めることはできないのは勿論、法の下の平等の原則に反する事由もなく、更に、仮に他の共同相続人に対する税額徴収手続に一部未了のものがあるとしても、それが本件各処分の違法事由になることもあり得ない。なお、原告が、遺留分を有すると思って申告したのにその後遺留分減殺請求権を行使しなかったというのは、申告が錯誤に基づく場合にも当たらず、本件各処分の違法事由ともならない。

三  以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、いずれにしても理由がなく、これらを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 青木亮 裁判官 谷口哲也)

別表

被相続人遠山義正に係る法定相続分について

〈省略〉

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